処遇改善加算の2024年度改定での変更点は?手順や注意点も解説
2024.12.23
2024年6月から施行された処遇改善加算の新制度に関して、多くの事業所が対応に追われています。新しい加算率の適用や申請手続きの変更、利用者や職員への説明など、実務面での課題が次々と浮上しているのではないでしょうか。
新制度では、これまでの3つの処遇改善加算が一本化され、より実態に即した運用が可能となりました。事業所にとって重要なのは、この制度変更を確実に理解し、適切に運用することです。
本記事では、新しい処遇改善加算制度の内容や実務のポイントについて、必要な情報をわかりやすく解説します。現場での運用に役立つ具体的な注意点も含めて説明していきます。
処遇改善加算の変更点に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
処遇改善加算の基本的な仕組みと目的
介護現場での人手不足を解消し、働く環境を改善するため、処遇改善加算が導入されました。
この制度は職員の給与向上だけではなく、サービスの質を高める仕組みとしても注目されています。
ここでは、その基本的な仕組みと目的を詳しく解説します。
処遇改善加算とは
処遇改善加算とは、介護職員の給与改善と働きやすい職場づくりを目的として、国が事業所にお金を支給する制度です。2012年に始まって以来、より良い制度になるよう定期的に見直されてきました。
処遇改善加算の主な内容をまとめると以下のとおりです。
対象者 | 介護の仕事に従事する介護職員(ほぼすべての介護職員が対象) |
支給方法 | 事業所が自由に決められる(毎月の給与・ボーナスなど) |
活用例 | 基本給アップ、職務手当の新設、賞与増額、各種手当の引き上げ |
申請条件 | 研修制度の整備など、一定の条件を満たす必要あり |
支給額 | 介護サービスの種類によって金額が変わる |
この制度のポイントは、単に給与を上げるだけではなく、働きやすい環境づくりや職員の長期勤続、さらには介護サービスの質を良くすることまで考えた総合的な仕組みだという点です。
2025年に向けてさらに増える介護の需要に備えて、より働きやすい職場を作るために、制度は常に改善されています。
事業所にとっては、職員の給与を上げることで新しい人材を採用しやすくなり、今働いている職員が辞めにくくなるなど、事業を安定して続けていくための大切な制度です。
処遇改善加算をさらに詳しく知りたい場合は、以下の記事も参考にしてください。
「介護職員の処遇改善加算とは?必要な機能とソフトの選び方を解説」
加算の対象となるサービス
処遇改善加算は、直接介護を行う職員がいるサービスのみが対象となります。
この制度は介護職員の給与改善が目的のため、介護職員が実際にサービスを提供している事業所だけが対象になります。そのため、介護職員がいない事業所は申請できません。
加算の対象となる主なサービスは、以下のとおりです。
訪問・通所系 | 訪問介護 訪問入浴介護 通所介護 通所リハビリ |
短期入所系 | 短期入所生活介護 短期入所療養介護 |
地域密着型 | 定期巡回型訪問介護 看護夜間対応型訪問介護 認知症対応型通所介護 小規模多機能型居宅介護 |
施設系 | 特定施設入居者生活介護 介護老人福祉施設 介護老人保健施設 介護医療院 |
対象外となるサービスには、以下のようなものが挙げられます。
- 訪問看護
- 福祉用具貸与
- 居宅介護支援事業所
- 介護予防支援
自事業所が加算の対象となるか確認する際は、まずサービス種別を確認しましょう。その上で、介護職員の配置状況と指定基準の充足状況を確認して申請してください。
算定要件の詳細は、以下の記事で確認できます。
「訪問介護における処遇改善加算|単位数・計算方法や算定要件を解説」
処遇改善加算の主な目的
処遇改善加算は、介護の仕事を続けやすくするための制度です。特に職員の給与アップと働く環境の改善が主な目的です。
介護業界では、他の業種と比べて給与が低く、仕事の負担も大きいため、職員の離職が課題となっています。
処遇改善加算の目的と期待される効果は、以下のとおりです。
職員の待遇 | 月給アップや賞与増額で、生活が安定する |
働く環境 | 研修制度の充実で、スキルアップができる |
サービス提供 | 経験豊富な職員が長く働き、質の高い介護を実現 |
事業所運営 | 人材が定着し、安定した運営ができる |
この制度は単なる給与補助ではありません。介護の仕事を魅力的な職業にし、質の高い介護サービスを実現するための取り組みです。
事業所がこの制度を上手に活用すれば、職員も利用者も、そして事業所も良い効果を得られるでしょう。
処遇改善加算の2024年度からの主な変更点
2024年の介護報酬改定による処遇改善加算の主な変更点は以下の3点です。
- 3つの加算の一本化について
- サービス別の新加算率と引き上げ内容
- 新しい配分ルールと対象者要件
それぞれ詳しく確認していきましょう。
3つの加算の一本化について
2024年6月から、処遇改善に関する3つの加算制度が一本化されます。
これまでは複数の加算制度が並立し、事業所の事務作業は煩雑でした。制度の一本化で手続きを簡素化し、事業所の負担が軽減できるでしょう。
統合される加算制度は、以下のとおりです。
- 介護職員処遇改善加算
- 介護職員等特定処遇改善加算
- 介護職員等ベースアップ等支援加算
なお、2024年4月・5月は旧制度での運用となり、6月分からの申請時に新制度への切り替えが必要です。
新しい「介護職員等処遇改善加算」への移行で、事業所の書類作成や計算作業が一本化され、手続きがシンプルになり、作業負担の軽減につながるでしょう。
参照:処遇改善加算の一本化及び加算率の引上げ(令和6年6月~)|厚生労働省
サービス別の新加算率と引き上げ内容
新制度では加算率が一本化され、さらに全体的な引き上げが行われます。
介護職員の賃金改善をより確実に実現するため、現行の3つの加算の合計よりも高い加算率が設定されました。
この引き上げにより、事業所は職員の処遇改善を進めやすくなります。
主なサービスの新制度の加算率は、以下のとおりです。
新加算率(Ⅰ) | 引き上げ幅 | |
訪問介護 | 24.5% | +2.1% |
通所介護 | 21.0% | +1.8% |
特養・老健 | 15.5% | +1.5% |
グループホーム | 18.5% | +1.7% |
加算区分は基本的にⅠ~Ⅳまでとなります。ただし、新制度への移行をスムーズにするため、2024年度末までは現行の加算率を維持できる経過措置が設けられています。
新しい配分ルールと対象者要件
2024年6月からの新制度では、賃金改善の配分ルールが大幅に柔軟化されます。職種ごとの具体的な配分割合が撤廃され、事業所の実情に合わせた運用が可能になります。
これまでは勤続10年以上の介護福祉士への重点配分など、細かな基準が定められていました。しかし、各事業所の現場事情は異なるため、より柔軟な配分ができるよう制度が見直されました。
新制度の配分のポイントは、以下のとおりです。
- 介護職員への配分を基本とする
- 経験・技能のある介護職員を重視
- 事業所の実情に応じた配分が可能
- 特定の職員や事業所への集中は不可
ただし、配分の自由度が上がる一方で、一部の職員や特定の事業所への偏った配分は認められません。事業所全体のバランスを考慮した、公平な賃金改善を進めることが求められます。
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処遇改善加算の2024年度算定要件
2024年の介護報酬改定で新設された「介護職員等処遇改善加算」には、以下の3つの主要な要件が設けられています。
- キャリアパス要件
- 月額賃金改善要件
- 職場環境等要件
これらの要件は、加算区分ごとに異なる基準が設定されており、加算率が高いほど求められる条件が厳しくなる仕組みです。各要件を詳しく説明します。
キャリアパス要件(Ⅰ~Ⅴ)の詳細
2024年6月からの新制度では、5つのキャリアパス要件が設定され、達成度に応じて加算区分(Ⅰ~Ⅳ)が変わります。
介護職員のキャリア形成と給与水準の向上を確実に実現するため、具体的な要件が必要となりました。より高い加算区分の取得には、これらの要件達成が欠かせません。
キャリアパス要件の内容は、以下のとおりです。
要件Ⅰ | 職位・職責に応じた任用要件と賃金体系の整備 |
要件Ⅱ | 職員の資質向上のための研修体制の整備 |
要件Ⅲ | 経験・資格等に応じた昇給の仕組みの整備 |
要件Ⅳ | 一定水準以上の賃金改善の実施 |
要件Ⅴ | 介護福祉士等の有資格者の配置 |
2024年度は経過措置期間です。この1年間で、無理のない形で各要件の体制を整えることができます。
月額賃金改善要件(Ⅰ・Ⅱ)の内容
新加算制度では、月額賃金の改善に関する2つの要件が設けられました。基本給や手当の引き上げを確実に実施するための基準です。
これまで一時金での支給が中心だった事業所も多く見られましたが、職員の安定的な収入を確保するため、月額給与の改善を重視する方針となっています。
月額賃金改善要件をまとめると、以下のとおりです。
要件Ⅰ | 新加算Ⅳ相当額の2分の1以上を月給(基本給・毎月の手当)の改善に充てる |
要件Ⅱ | 前年度比で、ベースアップ加算相当額の3分の2以上を基本給等の引き上げに充てる |
特に一時金中心の賃金改善を行っている事業所は、基本給や毎月の手当への組み替えを検討する必要があります。ただし、賃金総額を増やす必要はなく、支給方法の見直しで対応できるでしょう。
職場環境等要件
職場環境等要件については、新加算の区分ごとに必要な取り組み数が定められています。2024年度は新制度への移行期間として特別な基準が設けられており、加算区分によって要件が異なります。
新加算区分ごとの要件は、以下のとおりです。
新加算Ⅰ・Ⅱの場合 | 2024年度:6区分それぞれで1つ以上、公表不要 2025年度以降:6区分それぞれで2つ以上の取り組み+取組内容の公表 |
新加算Ⅲ・Ⅳの場合 | 2024年度:全体で1つ以上の取り組み 2025年度以降:6区分それぞれで1つ以上の取り組み |
2024年度は新制度への移行期間です。この期間を計画的に活用して、職場環境の改善を進めていきましょう。
処遇改善加算の申請手順
処遇改善加算の申請や運用をスムーズに進めるためには、正確な手続きと計画的な準備が欠かせません。
ここでは、申請に必要な書類とその作成ポイント、申請から加算算定までの具体的な手順、そして施策の実行から実績報告までのスケジュールについて詳しく解説します。
申請に必要な書類と作成のポイント
処遇改善加算の申請には複数の書類提出が必要です。事業所の状況に応じて必要な書類が異なるため、確認が重要です。
加算の算定要件を満たしていることを証明するため、基本書類と状況に応じた追加書類の提出が求められます。
申請時の基本的な必要書類には、以下のようなものが挙げられます。
- 介護給付費算定に係る届出書
- 介護職員処遇改善計画書
- 就業規則・給与規程の写し
- 労働保険関係書類
書類の詳細を確認したい場合は、厚生労働省の「令和6年度の申請方法・申請様式」を参考にしてください。
これらの書類は事業所の所在地を管轄する都道府県知事または市町村長へ提出します。居宅系サービスは前月15日まで、施設系サービスは当月1日までの提出が必要です。なお、2024年4月・5月は移行期間として、4月15日まで受付可能です。
参照:新加算等の申請等に係る提出物の提出期限一覧|厚生労働省
体制届出から計画書提出までの手順
処遇改善加算の算定には、計画書の作成・提出から利用者への説明まで、順を追った対応が必要です。
加算の算定には事前の準備と手続きが大切です。加算算定により利用者の自己負担額が増加するため、事前の説明と同意取得も必要となります。
加算算定までの主な手順は、以下のとおりです。
- 処遇改善計画書の作成
- 必要な根拠資料の準備
- 重要事項説明書の更新
- 利用者・家族への加算内容の説明と同意取得
- 都道府県知事などへの書類提出
- 提出書類の保管(2年間必要)
各手順を計画的に進め、特に利用者への説明は自己負担額の変更点を含めて丁寧に行うことが大切です。書類は期限に余裕を持って提出しましょう。
施策実行と報告までのスケジュール
処遇改善加算は計画の実行から報告まで、1年間の流れに沿って進めていく必要があります。
加算の適切な運用のため、計画的な施策実行と実績報告が求められます。特に報告書の提出期限は、必ず守りましょう。
施策の実行から報告までのスケジュールをまとめると以下のとおりです。
2024年4月~3月 | 施策の実行 | 計画書に基づく取り組みを実施 |
2025年5月 | 加算支払い完了 | 3月分の最終支払い |
2025年7月31日 | 実績報告書の提出 | 別紙様式3-1、3-2を使用 都道府県知事等へ提出 根拠資料は2年間保管 |
施策の実行状況は適切に記録を残し、実績報告に備えましょう。特に7月末の報告書提出期限は厳守してください。
処遇改善加算の2024年度改定における注意点
処遇改善加算の改定するにあたり、いくつか気を付けなければいけない点があります。
主な注意点は、以下の3つです。
- 利用者への説明と同意取得
- 賃金改善における留意事項
- 書類作成・保管のポイント
それぞれ詳しく説明します。
利用者への説明と同意取得
処遇改善加算の算定には、利用者や家族への説明と同意取得が必須です。加算内容を丁寧に説明し、同意書を取得する必要があります。
加算の算定により利用者の負担額が変わるため、事前の説明と同意が必要です。また、加算申請時の必要書類として同意書の提出が求められています。
説明・同意取得に必要な内容には、以下のようなものが挙げられます。
説明すべき項目 | 処遇改善加算の目的 加算による具体的な負担額 いつから加算が始まるか |
同意書に含める項目 | 加算についての説明 文具体的な負担額同意の署名欄 |
説明はわかりやすく具体的に行い、利用者や家族の理解を得ることが大切です。同意書は加算申請の重要書類となるため、適切に保管しましょう。
賃金改善における留意事項
新制度では、職種ごとの細かな配分ルールは撤廃されましたが、いくつかの重要な留意点があります。
職員の処遇改善を確実に実現するため、賃金改善の実施には一定のルールと注意点を守ることが大切です。
実施時の注意点には、以下のようなものが挙げられます。
配分方法 | 介護職員への配分を基本とし、経験・技能のある職員を重視 |
賃金水準 | 現在の賃金水準を引き下げることは不可 |
職員説明 | 改善内容を職員に明確に説明 |
経過措置 | 2024年度中の移行期間における対応を計画的に実施 |
加算の目的は職員が安定的に働ける環境づくりです。これらの留意点を踏まえたうえで、より良い職場環境の実現を目指しましょう。
書類作成・保管のポイント
処遇改善加算に関する書類は、適切な作成と保管が求められます。特に保管期間と記載内容の整合性には注意が必要です。
加算の適正な運用を証明するため、書類は2年間の保管が義務付けられています。また、書類間で内容に矛盾がないよう、正確な記録が求められます。
書類管理の際は、以下の点に注意してください。
保管期間 | 提出書類と根拠資料は2年間保管 |
記載内容 | 各書類間の整合性を確認 |
根拠資料 | 給与明細や賃金台帳などを適切に保管 |
書類の不備は加算の返還につながる可能性があります。記載内容を十分確認し、適切な保管体制を整えましょう。
2024年6月より処遇改善関連加算(処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ加算)が一本化されました。この結果、諸手続きも簡単になることが期待されていますが、そもそもの算定構造が複雑怪奇であるため、なかなかそういった期待に応えられる内容とは言いづらいのが現状です。あまり触れられることがないのですが、今回の新処遇改善加算では、『介護職員への配分を基本とし、特に経験・技能のある職員に重点的に配分すること』という前提はあるものの、すべての職種への配分が認められています。この点をポジティブに捉え、自法人の評価・キャリアパス制度の修正や新たに構築していくことは非常に有効でしょう。介護業界の評価制度は、評価の基準がかなり曖昧だと見聞きします。今回は具体的な制度を作り込むチャンスでもあるのです。
なお、株式会社ワイズマンでは「介護現場のリスク管理とスタッフ教育の重要性についての資料」を無料で配布中です。
介護・福祉現場でのリスク管理やスタッフ教育を課題としている方を対象に作成しておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
処遇改善加算の2024年度改定ポイントを理解しよう
2024年6月から処遇改善加算制度が変わります。これまでの処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算の3つが「介護職員等処遇改善加算」として一本化されます。
特に重要なのは、事務負担の軽減と柔軟な賃金改善が可能になる点です。これにより、事業所の実情に合わせた処遇改善が実現できます。また、職場環境の改善にも重点が置かれ、より働きやすい職場づくりを進めやすくなるでしょう。
新制度への移行に向けては、新しい制度内容の確認と書類準備を進めながら、5月末までに利用者への説明と同意取得を行う必要があります。また、職員への説明と賃金改善計画の作成、必要書類の保管体制の整備も欠かせません。
この制度改定を、より良い職場環境づくりのチャンスととらえ、計画的に準備を進めていきましょう。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。