処遇改善加算の要件|取得する際の流れとよくある質問を徹底解説

2024.12.19

介護報酬の中でも、処遇改善加算は介護スタッフに直接交付されるものです。
事業所の取り組みや従業員の経験に応じて、加算額を介護報酬に上乗せする形で交付されます。

処遇改善加算を適切に処理するために、算定要件と取得する際の流れを確認しておきましょう。

本記事では、処遇改善加算の算定要件と取得する際の流れを詳しく解説します。
処遇改善加算の要件に関連するよくある質問をあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。

介護職員等処遇改善加算とは

介護職員等処遇改善加算とは、介護スタッフのキャリア形成や職場環境の改善を行った事業所に加算される加算算定です。

2024年6月の報酬改定により創設された加算項目であり、介護報酬に上乗せする形で支給されます。
従来の加算項目であった下記を一元化し、介護職員等処遇改善加算が創設されました。

  • 介護職員処遇改善加算
  • 介護職員等特定処遇改善加算
  • 介護職員等ベースアップ等支援加算

介護業界は離職や採用難による人材不足が課題だったため、介護スタッフのキャリア形成や働きやすい職場づくりを促進することが大切です。

介護事業所は、処遇改善加算を取得するために、従業員が働きやすくやりがいを持って仕事に取り組める職場づくりを目指す必要があります
処遇改善加算を取得するために、下記の項目を確認しておきましょう。

  • 対象のサービス
  • 目的
  • 種類
  • 単位数

それぞれの項目を確認して、処遇改善加算の取得を目指すべきか検討してください。

対象のサービス

処遇改善加算の対象となるサービスは、次のとおりです。

  • 訪問介護
  • 夜間対応型訪問介護
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
  • 訪問入浴介護
  • 通所介護
  • 地域密着型通所介護
  • 通所リハビリテーション
  • 特定施設入居者生活介護
  • 地域密着型特定施設入居者生活介護
  • 認知症対応型通所介護
  • 小規模多機能型居宅介護
  • 看護小規模多機能型居宅介護
  • 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
  • 介護福祉施設サービス
  • 地域密着型介護老人福祉施設
  • 短期入所生活介護
  • 介護保健施設サービス
  • 短期入所療養介護 (老健)
  • 短期入所療養介護(病院など、老健以外)
  • 介護医療院サービス
  • 短期入所療養介護(医療院)

参照元:処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)|厚生労働省

処遇改善加算は、介護業務に従事するスタッフへ向けて還元される加算です。
そのため、訪問看護や福祉用具貸与など、介護従事者がいない事業所は対象になりません。

目的

処遇改善加算の目的は、介護スタッフが安定して働ける職場環境を整備し、加算報酬額を賃金改善にあてることです。

加算を取得した事業者は、介護スタッフの研修機会を確保し、雇用管理の改善などを行い、加算の算定額に相当する賃金改善を実施する必要があります

事業所は、国保連に加算の届け出をして、受け取った介護報酬を介護スタッフの賃金改善にあてましょう。

参照元:「介護職員処遇改善加算」のご案内|厚生労働省

種類

処遇改善加算の種類は、(Ⅰ)~(Ⅳ)までの4種類です。

加算区分算定要件
(Ⅰ)・新加算(Ⅱ)を満たしている
経験技能のある介護職員を事業所内で一定割合以上配置していること(訪問介護の場合、介護福祉士30%以上)
(Ⅱ)・加算(Ⅲ)の条件を満たしている
・改善後の賃金年額440万円以上が1人以上
・職場環境の更なる改善、見える化
(Ⅲ)・加算(Ⅳ)の条件を満たしている
・資格や勤続年数などに応じた昇給の仕組みの整備
(Ⅳ)・加算(Ⅳ)の2分の1(7.2%)以上を月額賃金で配分
・職場環境の改善(職場環境等要件)
賃金体系の整備および研修の実施など
参照元:処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)|厚生労働省

加算される介護報酬額は、事業所のサービスによって変動します。
また、同じサービスを提供している場合でも、人材育成や雇用環境の改善に取り組んでいる事業所は、加算額が高いです。

単位数

処遇改善加算の事業所が提供するサービスと、加算区分によって単位数が異なります
訪問介護と通所介護の場合は、次の単位数です。

サービス区分(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅳ)
訪問介護24.5%22.4%18.2%14.5%
通所介護9.2%9.0%8.0%6.4%
参照元:「処遇改善加算」の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算)され、加算率が引き上がります|厚生労働省

目安としては、次の金額が介護報酬に加算されます

サービス区分(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅳ)
介護スタッフ1名当たりの月額加算額37,000円相当27,000円相当15,000円相当13,500円相当
参照元:「介護職員処遇改善加算」のご案内|厚生労働省

処遇改善加算の算定要件

処遇改善加算は、以下の3つの要件を満たす必要があります

  • キャリアパス要件
  • 月額賃金改善要件
  • 職場環境等要件

それぞれの要件を確認して、処遇改善加算の取得を目指しましょう。

キャリアパス要件

キャリアパス要件とは、介護スタッフのキャリア形成促進につながる算定要件です。
処遇改善加算を得るためには、5種類のキャリアパス要件のいずれかを満たさなければなりません

キャリアパス要件概要
(Ⅰ)任用要件・賃金体系
(Ⅱ)研修の実施等
(Ⅲ)昇給の仕組み
(Ⅳ)改善後の賃金額
(Ⅴ)介護福祉士等の配置
参照元:「処遇改善加算」の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算)され、加算率が引き上がります|厚生労働省

キャリアパス要件を満たすために、それぞれの要件を確認しておきましょう。

キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)

キャリアパス要件Ⅰは、介護スタッフに職位、職責、職務内容など、定めた要件に応じて賃金体系を整備することです。

根拠規程を書面で整備し、全介護スタッフに周知しておきましょう。
なお、2024年度中は年度内の対応を誓約すれば、算定可能です。

キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等)

キャリアパス要件Ⅱは、介護スタッフの資質向上に関する目標や、以下のいずれかに関する具体的な計画を策定し、研修の実施または機会を確保することが算定要件です。

  • 研修機会の提供または技術指導などの実施、介護スタッフの能力評価
  • 資格取得のための支援(勤務シフトの調整、休暇の付与、費用の援助など)

キャリアパス要件を書面に整備し、全介護スタッフに周知する必要があります。
なお、2024年度中は年度内の対応を誓約すれば、算定可能です。

キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)

キャリアパス要件Ⅲは、以下の昇給に関する仕組みのいずれかを整備することが算定要件です。

  • 経験に応じて昇給する仕組み
  • 資格などに応じて昇給する仕組み
  • 一定の基準に基づき定期に昇給を判定

全介護スタッフに根拠規程を周知するために、書面で整備しておきましょう。
なお、2024年度中は年度内の対応を誓約すれば、算定可能です。

キャリアパス要件Ⅳ(改善後の賃金額)

キャリアパス要件Ⅳは、経験や技能のある介護スタッフのうち1人以上は、賃金改善後の賃金額が年額440万円以上であることが条件です。

経験や技能のある介護スタッフとは、介護福祉士の資格を持つ勤続10年以上の介護スタッフを指します
しかし、事業所での勤続年数が10年以下でも、他事業所での経験やスタッフのスキルをふまえて「経験や技能のある介護スタッフ」として設定できます。

なお、小規模事業所などで加算額全体が少額である場合には、年額440万円以上の条件が免除され、2024年度中は月額8万円の改善でも算定可能です。

キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士等の配置)

キャリアパス要件Ⅴは、サービス類型ごとに一定割合以上の介護福祉士などを配置していることが条件です。
適切な人員配置を実施している事業所のみが、キャリアパス要件Ⅴを算定できます。

月額賃金改善要件

月額賃金改善要件とは、処遇改善加算の加算額を介護スタッフの基本給や手当に活用しているかを確認する算定要件です。
月額賃金改善要件は、(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類があるため、それぞれの要件を確認しておきましょう。

月額賃金改善要件Ⅰ

月額賃金改善要件Ⅰは、新加算Ⅳ相当の加算額の2分の1以上を、基本給や毎月支給する手当の改善にあてることです。
処遇改善計画書に必要事項を記入すると、具体的な金額が自動的に算出されます。

なお、現在、加算による賃金改善の多くを一時金でまかなっている場合は、一時金の一部を基本給や毎月の手当に付け替える対応が必要になる可能性があります。

月額賃金改善要件Ⅰは2025年度からの適用ですが、2024年度の処遇改善計画書でも任意項目として賃金改善額の記載欄が設けられており、計画的に準備することが可能です。

月額賃金改善要件Ⅱ

月額賃金改善要件Ⅱは、前年度と比較して現行のベースアップ等加算相当の加算額の3分の2以上の新たな基本給などの改善を行うことです。

2024年5月末時点で旧処遇改善加算を算定し、旧ベースアップ等支援加算を未算定の事業所が新加算Ⅰ〜Ⅳを算定する場合のみ対象でした。

2024年6月からは、経過措置区分の新加算Ⅴ(1)を算定し、2025年度に新加算Ⅰ~Ⅳへ移行する場合に適用されます

適用条件としては、2025年4月から新たに増えたベア加算相当額の3分の2以上を、介護スタッフの基本給や毎月の手当を引き上げるために活用することです。

職場環境等要件

職場環境等要件は、従業員が働きやすい職場環境を整備しているか、以下の区分からいずれか1つでも取り組んでいれば、算定できます

区分具体的な内容
入職促進に向けた取組・事業所の経営理念やケア方針、人材育成方針を実現するための施策、仕組みなどの明確化
・事業者の共同による採用、人事ローテーション、研修のための制度構築
・他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者など、経験や資格にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築
・職業体験の受け入れや地域行事への参加、主催による職業魅力度の向上に関する取り組みの実施
資質の向上やキャリアアップに向けた支援・働きながら介護福祉士取得やより専門性の高い介護技術の取得を目指す者に対する支援や研修の実施
・研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動
・エルダー、メンター制度などの導入
・上位者、担当者などによるキャリア面談、キャリアアップに関する定期的な相談の機会の確保
両立支援、多様な働き方の推進・子育てや家族の介護と仕事の両立を目指す休業制度の充実、事業所内託児施設の整備
・スタッフの事情や状況に応じた勤務シフト、短時間正規職員制度の導入、希望に即した正規雇用への転換制度などの整備・有給休暇が取得しやすい環境の整備
・業務や福利厚生制度、メンタルヘルスなどの職員相談窓口の設置、相談体制の充実
腰痛を含む心身の健康管理・介護スタッフの身体的負担を軽減するための介護技術の修得支援、介護機器などの導入および研修による腰痛対策の実施
・短時間勤務労働者なども受診可能な健康診断やストレスチェック、健康管理対策の実施
・雇用管理改善へ向けた管理者に対する研修の実施・事故やトラブルへの対応マニュアルの作成、体制の整備
生産性向上のための業務改善の取組・ICT活用や見守り機器などの導入による業務量の縮減・高齢者の活躍による役割分担の明確化・5S活動の実践による職場環境の整備・業務手順書の作成や、報告様式の工夫による情報共有や作業負担の軽減
やりがい、働きがいの醸成・ミーティングや職場内コミュニケーションによる介護スタッフの意見に基づいた勤務環境やケア内容の改善
・地域包括ケアの一員として地域の児童や生徒、住民との交流の実施
・利用者本位のケア方針など介護保険や法人の理念を定期的に学ぶ機会の提供
・ケアの好事例や、利用者やその家族からの謝意などの情報を共有する機会の提供
参照元:処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)|厚生労働省

処遇改善加算を取得する際の流れ

処遇改善加算を取得する際の流れは、次のとおりです。

  1. 体制等状況一覧表を提出する
  2. 処遇改善計画書を作成し提出する
  3. 処遇改善の施策を実行する
  4. 実績報告書を作成し提出する

それぞれの流れを確認して、処遇改善加算の取得に必要な書類を準備しましょう

1.体制等状況一覧表を提出する

処遇改善加算を取得するには、まず事業所を管轄する自治体へ、体制等状況一覧表を提出します
体制等状況一覧表とは、取得を申請する加算の種別や事業所の体制などを申告する書類です。

サービス種別ごとに様式が異なり、居宅系サービスは前月15日まで、施設系サービスは当月1日までに提出する必要があります

2.処遇改善計画書を作成し提出する

処遇改善計画書を作成し、管轄の自治体へ提出することで、加算算定の準備が整います
事前に事業所内で処遇改善計画を周知し、算定する月の前々月末までに自治体へ計画書を提出しましょう。

なお、計画書は根拠資料とともに2年間保存する必要があるため、適切に管理しておいてください。

3.処遇改善の施策を実行する

必要書類を自治体へ提出した後は、いよいよ処遇改善の施策を実行します

処遇改善の施策は、事前に提出した処遇改善計画書の内容に基づく必要があるため、実行する施策の内容を事業所内で周知しておきましょう。

4.実績報告書を作成し提出する

実行した施策の実績を報告書にまとめ、管轄の自治体へ提出します。
実績報告書は、処遇改善計画書や根拠資料とともに2年間保存する必要があります。

処遇改善加算の要件に関連するよくある質問

処遇改善加算の要件に関連するよくある質問は、次のとおりです。

  • 非正規雇用の従業員も対象か
  • 介護職員等特定処遇改善加算との違いは
  • 取得額の計算方法は
  • 税制上の措置はあるか

それぞれの注意点を確認して、処遇改善加算の要件に関する疑問を解消しましょう

非正規雇用の従業員も対象か

処遇改善加算の対象者は「介護業務に従事している者」なので、雇用形態は関係ありません。
介護スタッフであれば、正規雇用や非正規雇用問わずに処遇改善加算の対象です。

介護職員等特定処遇改善加算との違いは

本記事で解説した処遇改善加算とは、2024年の改正により創設された「介護職員等処遇改善加算」を指します

「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」を一本化して、シンプルな仕組みで事務負担を軽減した制度が、現在の処遇改善加算です。

取得額の計算方法は

取得額の計算方法は、次のとおりです。

1カ月の総単位数(処遇改善加算分の単位数は除く)×処遇改善加算の加算率×地域区分単価=1カ月の処遇改善加算の取得金額

税制上の措置はあるか

事業者が賃上げを実施した場合、賃上げ促進税制が適用できます
賃上げした金額の一部を、法人税などの税金から控除できる制度です。

詳しくは、下記の経済産業省ホームページより制度の概要を確認できるので、チェックしておきましょう。

参照元:賃上げ促進税制(METI/経済産業省)

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

2024年介護報酬改定は1.59%のプラス改定となりました。そして、1.59%のうち大部分の0.98%が処遇改善に配分されるとともに、処遇改善関連加算(処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ加算)が一本化されました。プラス改定や一本化により事務負担の軽減が期待されること自体は歓迎すべき材料でしょう。一方で、新加算への移行にあたって賃金規定の見直しや配分方法の変更、職員や利用者への説明などの負担も生じています。処遇改善加算の建付けは非常に複雑な構造であるにも関わらず、月額6,000円相当の賃金引上げなどという形であっさり報道されてしまい、現場スタッフの不満を生む原因ともなってしまっています。各法人毎に具体的な処遇改善内容を丁寧に説明し、昇給・昇格の仕組みを分かりやすく伝えていきましょう。

処遇改善加算の要件を把握して改善計画を実施しよう

処遇改善加算の要件を把握して、改善計画を実施しましょう。
介護スタッフが働きやすく、キャリア形成できる職場環境を整えることで、処遇改善加算が適用されます。

処遇改善加算は、介護スタッフの月給に上乗せする形で支給されるもので、離職防止につながる加算です。
離職率を低下させ従業員のスキルアップ、キャリア形成を促進することで、定着率の高い職場づくりを実現できます

介護業務の従事者であれば、雇用形態に関わらずすべての従業員が対象なので、モチベーションアップにもつながります。
従業員のモチベーションを向上させ、生産性の高い職場環境を整えたい事業所は、処遇改善加算の取得を目指しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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