処遇改善加算のピンハネ疑惑を払拭する対処法|処罰やメリットを解説
2024.12.23
処遇改善加算は、働きやすい職場環境の改善やキャリア形成を促進した、事業所に支払われる加算です。
支給された加算額は、介護スタッフの月給や環境改善にあてられますが、中にはピンハネを疑われるケースがあります。
ピンハネを疑われると、従業員の不信感につながり離職率が増加するため、疑惑を払拭しましょう。
本記事では、処遇改善加算のピンハネ疑惑を払拭する対処法を詳しく解説します。
処遇改善加算をピンハネした場合の処罰と、疑惑を払拭するメリットをあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
処遇改善加算とは
そもそも処遇改善加算とは、介護スタッフの賃金や職場環境の改善を促すための制度です。
一定の条件を満たした事業所へ、介護報酬に上乗せする形で加算額が支給されます。
処遇改善加算を取得するために、事業所が実施すべき対応は、主に次のとおりです。
- 介護スタッフのキャリア形成促進
- 働きやすい職場環境への改善
- 賃金の底上げ
処遇改善加算を取得すれば、従業員が働きやすい環境を整え、月給アップにつながるため、定着率を向上させられます。
処遇改善加算の取得を目指すために、制度の目的と従業員へ手当が振り込まれるまでの流れを確認しておきましょう。
処遇改善加算の目的
職場環境改善の目的は、介護業界の体制を改善するためです。
従来の介護業界は、従業員の待遇が悪く人材不足に悩まされる事業所が多く存在しました。
少子高齢化に伴い労働人口が不足し、より深刻な人材不足が課題となったため、定着率を向上させる施策が求められました。
高齢者が増え続ける現在の日本において、介護スタッフの不足はケアサービスの質を低下させる事態へとつながります。
そのため、処遇改善加算を創設し、従業員が働きやすく低賃金での労働を強いられないよう、待遇と職場環境の改善を促進しました。
介護スタッフが、労働に見合うだけの賃金を受け取り、業務負担が軽減されると、業界のイメージアップへとつながります。
介護業界に働きやすくクリーンなイメージが定着すれば、人材不足の課題を解消し高精度なケアサービスを提供できます。
処遇改善加算の目的は、業界の人材不足問題を解消し、適切なケアサービスを利用者に提供することです。
処遇改善手当が従業員に振り込まれるまでの流れ
処遇改善加算が従業員に振り込まれるまでの流れは、次のとおりです。
- 事業所が加算要件を満たす
- 事業所が管轄の自治体へ加算の届け出をする
- 事業所が国保連に加算請求を行う
- 国保連が事業所へ処遇改善加算の報酬を支払う
- 事業所が処遇改善加算の報酬を介護スタッフに支給する
事業所はどのように処遇改善手当を従業員へ支給したかを報告書にまとめ、自治体へ提出しなければなりません。
ただし、手当の配分や支給時期は事業所が決められます。
処遇改善加算は原則ピンハネできない
「処遇改善加算を事業所がピンハネしているのではないか」と、介護スタッフが疑惑を持つケースがあります。
しかし、処遇改善加算のピンハネは、原則できません。
ピンハネができない理由は、主に次の3点です。
- 処遇改善手当の全額を介護スタッフに支払わなければならない
- 就業規則に処遇改善手当の支給方法を明記しなければならない
- ピンハネが発覚した場合は返還しなければならない
上記の理由から処遇改善加算はピンハネできないため、国保連から支給された加算額は、適切に介護スタッフへ還元しましょう。
処遇改善手当の全額を介護スタッフに支払わなければならない
処遇改善加算は、支給された全額を介護スタッフへ支払わなければなりません。
国保連から加算報酬は、いったん事業所へ支給されますが、本来の目的は従業員の待遇を改善することです。
そのため、国保連から事業所に加算報酬が振り込まれると、全額を介護スタッフに報酬として支給する必要があります。
「どのような形で従業員へ報酬を支払ったか」「何人の介護スタッフへ処遇改善手当を支給したか」など、事業所は国や自治体へ報告しなければなりません。
したがって、処遇改善加算をピンハネできません。
就業規則に処遇改善手当の支給方法を明記しなければならない
介護事業所は、就業規則に処遇改善手当の支給方法を明記する必要があります。
常時10人以上の労働者を雇用する事業所は、賃金に関する事項を就業規則に定めるよう、労働基準法の第八十九条によって定められています。
「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、賃金や臨時の賃金、勤務時間、退職などの事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」
参照元|労働基準法 第八十九条|e-Gov 法令検索
違反した場合は、同法120条の定めにより30万円以下の罰金が課せられます。
事業所は、就業規則に処遇改善加算の支給方法を明記する必要があるため、加算報酬をピンハネできません。
ピンハネが発覚した場合は返還しなければならない
事業所による処遇改善加算のピンハネが発覚した場合は、加算報酬を自治体へ返還しなければなりません。
さらに後ほどの章で解説する処罰が課されるため、事業所にとって加算報酬のピンハネはリスクがあります。
処遇改善加算の支給方法を就業規則に明記し、支給時期や対象、方法の報告義務があるため、ピンハネを隠しとおすことは困難です。
ピンハネが発覚した際のリスクを考えても、事業所は適切に介護スタッフへ処遇改善手当を支給しましょう。
処遇改善加算のピンハネを疑われないための対策法
処遇改善加算のピンハネを疑われないための対策法は、次のとおりです。
- 就業規則に支給方法を明記する
- 給与明細に記載する
- 介護スタッフが相談しやすい体制を整える
- 疑われた際は丁寧に説明する
従業員にピンハネを疑われた際には、上記の対処法で疑惑を払拭してください。
就業規則に支給方法を明記する
就業規則に支給方法を明記していると、処遇改善手当の支給対象や時期、分配方法を従業員に説明できます。
従業員は事業所が処遇改善手当をピンハネしていると感じた際に、就業規則を閲覧することで支給時期や対象を確認できるのです。
労働基準法によって、処遇改善加算の支給方法を就業規則へ明記しなければならないため、手当の分配方法や対象者を記載しておきましょう。
給与明細に記載する
処遇改善手当は、従業員の給与に上乗せしたりボーナスや一時金としたり、さまざまな方法で支給できます。
しかし、給与明細に処遇改善手当の金額が記載されていないと、従業員にピンハネを疑われるリスクがあります。
給与明細に「処遇改善手当」の項目を作成し、いくら手当として支給しているか、ひと目でわかるように工夫しましょう。
介護スタッフが相談しやすい体制を整える
ピンハネの疑惑を解消する対処法として、従業員が疑惑を持った際に相談しやすい体制を整えておくことが大切です。
介護スタッフが相談しやすい体制を整えておけば、ピンハネの疑惑を持った従業員と向き合い、丁寧に説明することで不安を払拭できます。
日頃から介護スタッフと管理者が気軽にコミュニケーションできる関係を築き、相談しにくい内容を相談できる窓口を設けましょう。
介護スタッフが相談しやすい体制を整えていない場合、疑惑を解消できないまま退職される可能性があるため要注意です。
疑われた際は丁寧に説明する
ピンハネを疑われた際は、丁寧に説明してください。
従業員の不安を取り除くように、相手が納得するまで丁寧に接することが大切です。
ピンハネの疑惑が晴れない場合は、支給時期や支給額を明細に記すなど、従業員が理解しやすいよう工夫しましょう。
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処遇改善加算をピンハネした場合の処罰
処遇改善加算をピンハネした場合の処罰は、次のとおりです。
- 報酬の返還を命じられる
- 加算金を徴収される
- 指定取消処分の対象となる
ピンハネは許されない行為なため、事業所は加算報酬を介護スタッフへ還元するよう徹底してください。
加算報酬をピンハネしないために、それぞれの処罰を確認しておきましょう。
報酬の返還を命じられる
処遇改善加算をピンハネした場合は、報酬の返還を命じられます。
行政によってピンハネを指摘された場合は、事業所が自ら不正部分を点検し、不正に受け取った報酬を返還しなければなりません。
過去数年間の膨大な請求資料を点検しなければならないので、業務が圧迫されます。
また、事業所がピンハネの自主点検に応じず、不正に受給した報酬を返還しない場合は、介護保険法上の返還請求を受けてしまうので注意しましょう。
介護保険法上の返還請求については、介護保険法22条に次のように記されています。
「偽りその他不正の行為によって保険給付を受けた者があるときは、市町村は、その者からその給付の価額の全部または一部を徴収することができる。
また、支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額に百分の四十を乗じて得た額を徴収することができる。
参照元:介護保険法 第二十二条|e-Gov 法令検索」
介護保険法に基づく徴収金は、裁判所に訴えなくても滞納している金額を強制的に徴収できます。
預金、生命保険、給与、売掛金、不動産などの財産を差し押さえられるため、介護報酬を入金している事業所の口座を差し押さえることも可能です。
「(滞納処分)
市町村が徴収する保険料その他この法律の規定による徴収金は、地方自治法第二百三十一条の三第三項に規定する法律で定める歳入とする。
引用元:介護保険法 第百四十四条|e-Gov 法令検索」
加算金を徴収される
介護保険法第22条3項に記されているとおり、処遇改善加算をピンハネすると報酬の返還だけでなく、加算金を徴収される可能性があります。
返還額の100分の40が加算金として徴収されるため、2,000万円のピンハネが発覚した場合は、800万年の加算金を支払わなければなりません。
ただし、加算金の対象はピンハネなど悪質な行為で介護報酬を不正受給していた場合で、事務的なミスにより多く介護報酬を請求してしまった場合は、報酬の返還だけで済みます。
指定取消処分の対象となる
処遇改善加算をピンハネした場合、指定取消処分の対象となるため注意しましょう。
事業所が提供しているケアサービスによって、指定取消処分の根拠法案は異なります。
指定居宅サービス事業者 | 介護保険法77条1項各号 |
指定地域密着型サービス事業者 | 介護保険法78条の10、1項各号 |
指定居宅介護支援事業者 | 介護保険法84条1項各号 |
指定介護老人福祉施設 | 介護保険法92条1項各号 |
介護老人保険施設 | 介護保険法104条1項各号 |
介護医療院 | 介護保険法114条の6、1項各号 |
指定介護予防サービス事業者 | 介護保険法115条の9、1項各号 |
指定地域密着型介護予防サービス | 介護保険法115条の19、1項各号 |
指定介護予防支援事業者 | 介護保険法115条の29、1項各号 |
指定取消処分を受けた事業所は、一定期間、指定の効力が停止され介護サービスを提供できません。
正確には介護サービスを提供できますが、介護保険法に基づく介護報酬を請求できなくなります。
処遇改善加算のピンハネ疑惑を払拭するメリット
処遇改善加算のピンハネ疑惑を払拭するメリットは、次のとおりです。
- 介護スタッフの信頼を獲得し定着率を向上できる
- クリーンなイメージを保てる
- 従業員のモチベーション向上につながる
それぞれのメリットを確認して、従業員にピンハネを疑われた際は不安を払拭してください。
介護スタッフの信頼を獲得し定着率を向上できる
ピンハネ疑惑を払拭することで、介護スタッフの信頼を獲得し定着率の向上につなげられます。
不正を行っている事業所は、従業員が不満を感じてしまい、離職につながりやすいです。
ピンハネ疑惑を払拭し、従業員の待遇改善を促進しているクリーンなイメージを定着させれば、離職を防止できます。
従業員の待遇を改善し、競合他社より働きやすい環境を整えれば、定着率を向上させられます。
クリーンなイメージを保てる
ピンハネ疑惑を払拭するメリットは、クリーンなイメージを保てることです。
処遇改善加算をピンハネした事業所は、従業員だけでなく社会的な信用を失いかねません。
社会的信用を失った事業所は、顧客を獲得できずに経営難に陥るリスクがあります。
クリーンなイメージを保ち、顧客獲得につなげるために、ピンハネなどの不正は行わないようにしてください。
従業員のモチベーション向上につながる
処遇改善加算のピンハネ疑惑を払拭すれば、従業員のモチベーション向上につながります。
ピンハネを行わずに、適切に加算報酬を従業員へ還元していると介護スタッフが知れば、モチベーションが向上する可能性があります。
そもそも処遇改善加算は、介護スタッフの待遇を改善しキャリア形成を促進するための制度です。
処遇改善加算を取得し従業員へ報酬を還元することで、モチベーション向上につながります。
介護保険創成期には、薄給でも一生懸命勤務しているスタッフを尻目に、高級外車を乗り回すなどで反感を買う経営者も一定数存在しました。未曽有の人材難である現在では、このような露骨な行動をとる経営者はさすがにほとんどいないでしょうが、介護スタッフの根底には『利益の分配』に対して不信の目があるというのは認識しておいた方がよいでしょう。このような根深い背景もあり、処遇改善加算がどのように分配されるのかというのは介護スタッフにとって敏感な問題です。処遇改善加算による報酬は文字通り、原則スタッフの処遇改善への原資としか使えずピンハネしづらいものなのですが、構造が複雑な為スタッフにとってもわかりづらい内容となっています。分配方法は法人に委ねられている部分もあり、丁寧な説明が必要なのは言うまでもないでしょう。
なお、株式会社ワイズマンでは「介護現場のリスク管理とスタッフ教育の重要性についての資料」を無料で配布中です。
介護・福祉現場でのリスク管理やスタッフ教育を課題としている方を対象に作成しておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
処遇改善加算のピンハネ疑惑を払拭してクリーンな運営を続けよう
処遇改善加算のピンハネを疑われた際は、疑惑を払拭して従業員の信頼を獲得しましょう。
処遇改善加算を受け取った事業所は、報酬を全額従業員へ還元し、支給方法や対象者を自治体へ報告しなければなりません。
就業規則に処遇改善加算の支給方法を明記する必要があるため、ピンハネを疑った従業員は、いつでも就業規則を確認できます。
従業員が就業規則を閲覧しても、ピンハネ疑惑を払拭できない場合は、給与明細に明記するか丁寧に説明して不安を解消する必要があります。
処遇改善加算は、従業員の定着率とモチベーション向上につながる制度です。
そのため、ピンハネせずに介護スタッフへ全額支給してください。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。