介護サービス事業者経営情報とは|活用方法などについて解説

2025.04.27

介護サービス事業者の経営情報は、事業運営の透明性を保つために重要な要素であり、報告は法令により義務付けられています。
近年は介護サービス事業者経営情報データベースが開設されるなど、介護事業者が提出する経営情報の重要性はよりいっそう増しました。

経営情報の具体的な報告内容・活用方法などを、明確に理解するのは簡単ではありません。
しかし、適切に活用すれば、介護事業所の経営状況を改善できる可能性が高まります。

本記事では、「介護サービス事業者経営情報」の基本的な知識に加え、活用方法や報告の際の注意点などについて詳しく解説します。
経営情報を適切に把握し、適切な報告と活用により、より良いサービス提供と経営の安定につなげていきましょう。

介護サービス事業者経営情報とは

介護サービス事業者経営情報とは、介護サービスを提供する事業者の経営状況を把握するために、事業所の収益や費用・職員の給与などに関する財務情報を収集・分析するものです。
介護サービス事業者経営情報は、介護サービスの質の向上や経営の安定化を支援するために活用されます。

参照:介護サービス事業者経営情報データベースシステム|厚生労働省

   介護サービス事業者経営情報の報告等に関するQ&A|厚生労働省

介護サービス事業者経営情報の報告義務化

2024年度(令和6年度)から、原則としてすべての介護サービス事業者において、経営情報の報告が義務付けられました。

報告の義務化は、社会情勢を踏まえた支援や制度の持続可能性に対応するため、物価上昇や災害などの経営影響を把握し、適切な支援策を検討することを目的としています。
国が正確に介護サービス事業者の経営状況を把握することで、適切な施策を実施できるようになることが期待されています。

なお、過去1年間の介護サービスの対価として受け取った金額が100万円以下の事業者や、災害などで報告が困難な場合は対象外となります。

参照:介護サービス事業者経営情報データベースシステム|厚生労働省

介護サービス事業者経営情報データベースシステムとは

介護サービス事業者経営情報データベースシステムは、介護サービス事業者が経営情報を報告するために使用するシステムです。
各事業者はこのシステムを通じて、都道府県に情報を報告します。

報告は、対応している会計ソフトウェアなどからCSV形式でファイルを出力して連携する方法と、システムに直接入力する方法があります。
業務負荷軽減の観点から、厚生労働省は会計ソフトウェアからのデータファイルでの報告を推奨しています。

なお、介護サービス事業者経営情報データベースシステムを利用するためには、GビズIDの取得が必須です。
GビズIDは、1つのIDとパスワードでさまざまな行政サービスにログインできるサービスです。

なお、GビズIDの取得方法については、厚生労働省がマニュアルや動画で解説しています。

参照:介護サービス事業者経営情報データベースシステム|厚生労働省

報告対象となる介護事業所

報告対象となる介護事業所は、介護保険法に基づく指定を受けている介護サービスを提供するすべての事業所・施設です。
具体的には、以下のようなサービスを提供する事業所が該当します。

  • 訪問介護
  • 訪問看護
  • 通所介護(デイサービス)
  • 通所リハビリテーション(デイケア)
  • 短期入所生活介護(ショートステイ)
  • 介護福祉施設サービス
  • 介護保険施設サービス
  • 介護医療院
  • 特定施設入居者生活介護
  • 地域密着型サービス

上記のとおり、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は報告義務を課せられていません。
ただし、「特定施設入居者生活介護」または「地域密着型特定施設入居者生活介護」とみなされるものは、「33Aまたは36A(有料老人ホーム)」として報告対象に含まれます。

なお、介護予防支援は報告の対象外です。

参照:介護サービス事業者の経営情報の報告・公表|厚生労働省

   介護サービス事業者経営情報の報告等に関するQ&A|厚生労働省

介護サービス事業者経営情報の報告方法

介護サービス事業者は、会計年度終了後3ヵ月以内に経営情報を報告する必要があります。
2024年度(令和6年度)の報告期限は、2025年3月末までです。

報告は原則として介護事業所・施設単位で行いますが、事業所・施設ごとの会計区分が困難な場合は、法人単位での報告も可能です。
報告の際には、介護サービスの種類ごとに定められたサービス種類コードを使用する必要があります。

参照:介護サービス事業者経営情報データベースシステム|厚生労働省

介護サービス事業者経営情報の報告が義務化された理由

介護サービス事業者経営情報の報告義務化には、主に以下の理由があります。

  • 高齢化の進展と介護ニーズの多様化
  • 介護サービスの質の向上と経営の安定化の必要性
  • 介護サービスの現状把握と事業者の経営改善支援

それぞれの理由について、順番に解説します。

高齢化の進展と介護ニーズの多様化

日本における高齢化は急速に進んでおり、それに伴って介護ニーズも多様化している状況です。
従来の介護サービスだけでは対応しきれないケースも増えており、よりきめ細かく、質の高いサービス提供が求められるようになりました。

そのため、経営情報の報告を義務化することにより、介護サービス事業者の経営状況を把握することは重要です。
経営状況に応じて必要な支援を行うことで、事業所が多様なニーズに対応できる体制を構築できます。

介護サービスの質の向上と経営の安定化の必要性

介護サービスの質の向上は、利用者とその家族にとってもっとも重要な課題の一つです。

しかし、介護サービスの質は、事業者の経営状況に大きく左右されることがあります。
経営が不安定な事業所では、十分な人材を確保できなかったり、設備投資を控えてしまうことで、サービスの質が低下する可能性があります。

介護サービス事業者が経営情報を収集・分析することで、経営状況が芳しくない事業者を早期に発見し、経営改善のための支援が可能です。
それにより、介護サービスの質を維持・向上させ、利用者が安心してサービスを受けられる環境を整備することが期待されています。

介護サービスの現状把握と事業者の経営改善支援

国が介護サービス事業者の経営状況を正確に把握することで、社会情勢を踏まえた適切な支援策を検討できます。
物価上昇・災害・感染症などによる経営影響を踏まえ、的確な支援策を実施するために、介護サービス事業者経営情報は重要な情報源です。

また、各事業者が自らの経営状況を適切に把握することで、自主的な経営改善を促すことも目的の一つです。

介護サービス事業者経営情報データベースシステムを通じて報告された情報は、属性などに応じてグルーピングされた分析結果として公表されます。
これにより、各事業者は自らの経営状況を客観的に評価し、改善点を見つけられます。

【2025年度最新版】介護サービス事業者経営情報の報告内容

介護サービス事業者経営情報の具体的な報告内容については、厚生労働省から詳細な情報が公開されています。
大きく分けると以下のとおりです。

報告項目内容
基本情報事業所の名称・所在地・連絡先・法人番号など
経営情報収益・費用・利益などの財務情報
サービス提供情報サービスの種類・提供時間・利用者数など
職員情報職種・人数・経験年数・資格など

これらの情報は、介護サービスの質の向上や経営の安定化に加え、介護サービスの現状把握と事業者の経営改善支援のために活用されます。
報告に際しては、「GビズIDプライム」のアカウント取得が必要となる点に注意が必要です。

また、事業所等において、報告対象となるサービスと対象外のサービスを両方行っている場合、報告対象となるサービスのみの報告で問題ありません。

参照:介護サービス事業者経営情報データベースシステム|厚生労働省

   介護サービス事業者経営情報の報告等に関するQ&A|厚生労働省

介護サービス事業者経営情報の活用方法

介護サービス事業者経営情報は、単に報告するだけでなく、そのデータを活用することで、事業の質向上や経営改善につなげられます。
本章では、以下のような具体的な活用方法について解説します。

  • 経営状況の可視化による課題発見
  • 利用者ニーズに合わせたサービス提供の実現
  • 他業者との比較分析による強み・弱みの明確化
  • データに基づいた人材育成戦略の構築

経営状況の可視化による課題発見

経営情報データベースシステムに報告したデータは、自施設の経営状況を客観的に把握するための貴重な情報源です。
収益・費用・職員の給与などを詳細に分析することで、これまで見えにくかった以下のような課題や改善点を発見できます。

  • 収益性の低いサービス
  • コスト構造の問題点
  • 人材不足の深刻度
  • 利用者獲得の課題

上記のような課題を抽出し、分析することにより、対応策の検討が可能です。
例えば、人件費率が高い場合は、業務効率化や人員配置の見直しを検討するきっかけになります。

介護サービス事業者経営情報の報告は、ただ課せられた義務を果たすだけではありません。
事業所の経営状況を改善し、最適化するうえでも効果的な取り組みです。

利用者ニーズに合わせたサービス提供の実現

収集された経営情報は、介護サービスの現状把握に役立ち、利用者ニーズに合わせたサービス提供の実現につながるものです。

例えば、特定のサービスに対する需要が高いことがデータから明らかになった場合、そのサービスの拡充を検討することで、利用者の満足度向上に貢献できます。
また、AI技術を活用して日々の業務データを分析することで、よりパーソナライズされたケアの提供も可能です。

ほかにも、以下のような改善策にもつながります。

  • 特定の要介護度の利用者が多い場合、そのニーズに合わせた専門性の高いサービスを強化する。
  • リハビリテーションのニーズが高い場合、リハビリ専門職の配置を増やす。
  • 夜間対応のニーズが高い場合、夜勤体制を強化する。

サービスの改善ができれば、利用者の増加による収益の向上が期待できます。

他事業者との比較分析による強み・弱みの明確化

経営情報データベースシステムでは、属性などに応じてグルーピングした分析結果が公表される予定です。
この情報を活用することで、以下の観点から自施設の経営状況を、同規模の他事業者と比較することで、強みや弱みを明確にすることができます。

分析項目比較対象分析結果から得られる示唆
稼働率同規模の他事業者自施設の利用者獲得力・サービス提供能力の評価
人件費率同地域の他事業者自施設の給与水準・人材確保戦略の評価
利用者満足度類似サービスを提供する他事業者自施設のサービス品質・改善点の特定

例えば、ほかの介護事業所より稼働率が低い場合は、利用者の獲得能力やサービスの提供能力を見直すきっかけになります。

データに基づいた人材育成戦略の構築

職員の職種別人員数や給与に関する情報は、人材育成戦略を構築するうえで重要な要素です。
経営情報を分析すれば、以下のような戦略の構築が可能です。

  • 特定のスキルを持つ職員が不足している場合、そのスキルに関する研修を積極的に実施する。
  • 経験年数の長い職員に対して、管理職候補としての育成プログラムを提供する。
  • 職員のキャリアパスを明確化し、モチベーション向上を図る。

例えば、特定の職種の人員が不足している場合は、採用活動の強化や、既存職員のスキルアップを支援する研修制度の導入などを検討する必要があります。
また、給与水準が低い場合は、給与体系の見直しや、福利厚生の充実を図ることで、職員のモチベーション向上につなげられます。

近年は少子化による人手不足の影響もあり、人材の確保が介護業界全体において重要な課題となりました。
事業所の運営を安定化させるうえでも、有効的な人材育成戦略の構築は不可欠です。

介護サービス事業者経営情報を報告する際の注意点

介護サービス事業者経営情報を報告する際には、以下の注意点を意識しましょう。

  • 報告義務に違反すると罰則を受ける
  • 電子情報でしか報告できないのでIT化が必須となる

上記の注意点を守らない場合、罰則を受ける可能性があるほか、報告システムへの対応が困難になるリスクがあります。

報告義務に違反すると罰則を受ける

介護サービス事業者には、介護サービス事業者経営情報を都道府県に報告する義務があります。
この報告を怠ったり、虚偽の報告を行った場合、罰則が科せられる可能性があるので注意しましょう。

厚生労働省の資料によると、原則としてすべての介護サービス事業者が報告対象です。
ただし、過去1年間の介護報酬収入が100万円以下の事業者や、災害などで報告が困難な場合は対象外となります。

電子情報でしか報告できないのでIT化が必須になる

介護サービス事業者経営情報の報告は電子情報での報告が必須です。
そのため、IT化への対応が欠かせません。

IT化対応の具体的な準備としては、以下のようなものが挙げられます。

GビズIDの取得データベースシステムへのログインには、GビズIDプライムのアカウントが必要です。事前に取得しておきましょう。GビズIDの取得には、オンライン申請または郵送での申請が可能です。
会計ソフトの対応対応する会計ソフトからCSV形式でデータを出力し、システムに連携することが推奨されています。会計ソフトが対応しているか確認し、必要に応じてアップデートや乗り換えを検討しましょう。
システム操作の習熟厚生労働省のホームページで公開されているマニュアルや動画を参考に、システムの操作方法を習得しましょう。

IT化への対応は、報告業務の効率化だけでなく、経営状況の可視化や分析にも役立ちます。
この機会に、事業所全体のIT環境を見直し、経営改善につなげていきましょう。

介護サービス事業者経営情報をスムーズに報告するならワイズマンシステムSPを使おう

介護サービス事業者経営情報をスムーズに報告するなら、ぜひ弊社ワイズマンのワイズマンシステムSPをご活用ください。

ワイズマンシステムSPは介護施設向けのソフトウェアであり、請求処理・ケア記録の管理・集計資料の作成など、さまざまな業務を電子化できます。

ワイズマンシステムSPは機能が充実しているうえに、わかりやすいインターフェースを利用しているため、操作性が高い点も魅力です。
さらに介護サービスの種類別に製品を展開しており、事業所に合わせた運用も可能です。

ワイズマンシステムSPは事業所のIT化をすすめ、介護サービス事業者経営情報の報告を円滑化するうえでおおいに役立ちます。
ワイズマンが導入から運用開始まで手厚くサポートを実施するため、初めてIT化に着手する事業所でも安心して任せられます。

ぜひ導入をご検討ください。

梅沢 佳裕 氏
梅沢 佳裕 氏

2024(令和6)年度から「介護サービス事業者経営情報」の報告義務化により、原則としてすべての介護サービス事業者が都道府県へ経営情報の報告を行うこととなりました。はじめての報告作業に入力方法が分からず、手間取った方も多かったのではないでしょうか。

近年は、介護サービス事業者を取り巻く環境も、物価上昇や災害、感染症蔓延など、経営に大きく影響しかねない要因が散見されています。この情報報告の義務化は、一見すると、国・都道府県など行政が、事業者の一元管理のために導入したようにも見えますが、一方で介護サービス事業者の皆さまにもメリットはあるのではないかと思います。経営・運営面状況の指標として、また専門職人材の確保や定着状況などが可視化されることで、具体的な経営戦略の検討にも役立てることができます。

介護サービス事業者経営情報は事業所を経営するうえで重要

介護サービス事業者経営情報は、介護事業所を経営する上で非常に重要な役割を果たします。
厚生労働省は、収集した経営情報などを属性別にグループ分けしたうえで分析を行い、結果を公表する予定です。

介護サービス事業者は、経営情報を適切に管理・分析し、経営改善に役立てることで、より質の高いサービス提供と安定的な事業運営を実現できます。
経営情報の報告義務を遵守するだけでなく、その情報を積極的に活用していくことが、今後の介護事業経営においてますます重要となるでしょう。

監修:梅沢 佳裕

人材開発アドバイザー

介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

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