【小濱道博の介護戦略塾】2022年在宅サービスの運営指導対策 <第1回>
1.コロナ禍での運営指導の現状
コロナ禍の中であっても、運営指導が行われています。ただし、感染者数の変動で中止や延期が多く、感染者が減ったタイミングを見ながら行われています。令和2年度以降は、コロナ禍特例措置などもあって、法令の解釈での複雑さが更に増しています。コロナ禍での特例措置を使っている場合は、その根拠となる記録が特に重要となります。コロナ禍の影響で人員基準が満たせない場合には、介護報酬の人員基準減額を行わない取扱いが可能であるとされています。しかし、コロナ禍を理由とすれば、何事も人員基準減額が行われないかというと、それは違います。その経緯や事情が業務日誌などに記録されていることが大前提となります。ワクチン接種が普及した現在においては、クラスターの発生などが理由で無い場合は、特例が適用されないケースもあります。特例はあくまでも特例であって、本来の基準ではありません。特別措置の長期化によって、対応が慢性化して、都合の良い解釈や拡大解釈を行っている状況も見受けられます。特例では、日常的に実施しなくても良いのでは無く、やむを得ない場合にのみ認められることを再認識すべきです。この件を指摘されての、介護報酬の返還指導が増えています。
運営指導は、まず開業してから1年以内に行われます。多くの役所では、最初の運営指導を新しく事業所番号を交付してから1年ほど経ったタイミングで実施しています。新規開業の間もないうちに最初の指導を行って、適正な運営が行われているかを確認して、問題があれば早期に指導する目的があります。その後は、在宅サービスでは指定更新前後の5~6年に一度というペースが通常の定期的な実施頻度です。また、苦情・告発から運営指導に繋がるケースも多くあります。
「苦情」とは、利用者や家族からのクレームのことです。クレームが役所に頻繁に届くような場合は、確認の意味で運営指導が行われます。「告発」とは、それ以外の第三者による通報です。退職した職員の逆恨みによる告発や内部告発から行政処分に繋がった事例もあります。苦情、告発の内容が、虐待、身体拘束、医療行為に該当する場合は、証拠隠滅の恐れがあるため、通知から運営指導までの間隔が数日と短期間で実施されます。運営指導では、利用実績の少ない小規模事業所に対して、確認事項を記した書類を郵送して返送させる方法で簡易的に実施される書面指導があります。近年は、コロナ禍の影響もあって、書面指導での運営指導も増える傾向になります。提出された書類の記載内容に疑問がある場合に、訪問しての運営指導に切り替わります。しかし、実は書面指導は制度的には平成18年から認められては居ませんが、ローカルルールとして存在しているのが実情です。
2.複雑化する処遇改善加算等の算定要件
ここ数年は、介護職員処遇改善加算等の返還指導が急増しています。返還理由の多くは、支給対象者以外に支給していたケースです。介護職員処遇改善加算と介護職員等特定処遇改善加算の算定要件が毎年のように変わっています。特に令和2年度の改定では、比較対象年度が大きく変わりました。最初に加算を算定した前の年度から、算定の前年度となり、さらに「前年の1月から12月」と「当年の4月から翌年3月」を比較するという変則的な算定要件となったのです。さらには、最初に加算を算定した前年以降の独自の改善額を、別枠で計算して基準年度から差し引く処理を行う処理が追加されました。職員の入退所による実施年度と、比較対象年度間の賃金総額の調整作業も必要です。これらの明細表等の作成で、多くの時間を費やすケースも増えてきています。
いずれにしても、各年度に於いて算定要件が大きく異なるため、今一度の再確認が必要となっています。さらには、2月から始まった介護職員処遇改善支援事業の処理が増えました。これは10月から加算に変更となり、処遇改善関連加算が3本となります。支給対象者や配分のルールが、それぞれの加算毎に異なります。しっかりと算定要件を整理した上での算定が求められます。
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表 株式会社ベストワン 取締役 一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事 C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問 日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。 介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。 全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。 介護経営の支援実績は全国に多数。 |