2022.08.12
トピックス

【斉藤正行のはなまる介護~現場に寄り添うこれからの介護業界展望~】第5回「介護職員等の処遇改善に向けた取り組みのゆくえ」

PC用バナー_斎藤様.jpg

今回は介護職員等の処遇改善をテーマとしたいと思います。介護職の平均年収は、全産業平均と比較すると月額数万円程度低い水準にあるとの調査結果が示されていることは周知の事実であります。介護職の処遇改善は業界の最大課題の1つであります。

政府より過去に何度も処遇改善施策は実施されています。「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」に加えて、本年2月より「介護職員処遇改善支援補助金」が支給され、10月より「介護職員等ベースアップ等加算」として介護報酬に組み込まれる予定となっています。これら、処遇改善の関連加算によって介護職員等の処遇は大きく改善されていることは確かであり、大変有難い施策であります。しかしながら、制度にいくつかの課題も生じており、介護現場においては不満の温床となっている側面もあります。

 例えば、加算算定における提出書類が膨大であり、計算式が複雑となっている点は、現場から不満の声を数多く聞きます。有難い加算ではあるものの、3種類の加算となることから、それぞれに計画書や実績報告書の提出が求められることとなり、結果として事務作業の増加に伴う残業の発生や、システム導入に伴うコストの発生や、場合によっては書類提出を士業の方に代行してもらうためのコストが発生しているケースもあり、職員に対する分配率を阻害している一因にもなっており、制度や書類の簡素化が、現場からは望まれています。また、「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等加算」は、介護職員以外への分配も一定程度可能となっていますが、「介護職員処遇改善加算」は介護職員のみにしか分配出来ないことから、他職種が多く働く介護現場においては、不公平を感じる場合もあります。特に、居宅介護支援事業所におけるケアマネジャーや、福祉用具貸与事業所の福祉用具専門相談員には、加算が存在していないことから、同一法人においてこれらのサービスを含めて複数サービス展開している法人においては、不満の温床となっている状況にあります。

 2024年4月に予定されている介護報酬改定において、これらの制度上の課題解決に向けた議論もこれから行われてくることになると思います。まだまだ議論の行方は不明な状況にありますが、現場の想いを汲取った改定となることを期待したいと思います。更には、岸田政権においては「公的価格を見直し、介護職の処遇改善を行う」ことは看板政策の1つとして位置付けられていることからも、次期報酬改定において、更なる改善策が検討される可能性もあります。

その中で、もう1つ注目していくべきポイントは、「介護職員等ベースアップ等加算」では、職員への支給に際して、月額給与への支給を全体の3分の2以上行うことがルールとして定められています。従来の加算においては、分配方法は法人の差配に委ねられているので、結果として月額給与による改善ではなく、賞与支給として分配される法人も散見されています。賞与による支給であれば、毎年の業績による配分などによって金額が異なることも多いため、結果として加算による支給が職員に実感されにくいという課題があります。新しい加算による月額支給の考え方が、従来の2種類の加算においても組み込まれることとなれば、職員の処遇改善の実感が大きくなるのではないでしょうか?これからの議論の推移に注目していきたいと思います。

斉藤 正行氏

  • 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
  • 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
  • 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
  • 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
  • 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
  • その他、介護関連企業・団体の要職を歴任

メルマガに登録して最新ニュースをすぐに受け取ろう!