【斉藤正行のはなまる介護~現場に寄り添うこれからの介護業界展望~】第7回「財務省による介護保険制度の改革提案を検証」
現在、介護保険法の改正に向けて、社会保障審議会介護保険部会と言われる場において、定期的な議論が行われています。議論のテーマの1つが「給付と負担」についてです。介護保険報酬は、税金及び介護保険料から介護事業者に給付される仕組みとなっており、その給付額を国民がどのように公平感を持って負担をしていくのかが話し合われています。少子高齢化が加速している中で、給付を受ける要介護高齢者は増加し続ける一方で、税金や介護保険料を納める現役世代が減少し続ける人口構造の中で、どのようにして介護保険制度を維持し続けていくのかは大きな社会に課せられた命題です。
そのような状況の中で、財政を司る財務省は社会保障改革に向けた様々な意見提言を行っています。今年の4月には、財政制度等審議会財政制度分科会(通称は財政審)が開催され、我々介護現場にとっては大変厳しい意見提言が行われました。今回はその中身を皆さんと一緒に確認し、検証していきたいと思います。介護現場に対する意見提言がいくつも示されましたが、とりわけ影響の大きい11の項目を以下に示したいと思います。①ICTの推進による人員基準要件の緩和と文書量削減などの業務効率化の推進について。②経営主体の大規模化・協動化の推進について。③介護事業者の財務状況の公表義務化について。④利用者負担の原則2割負担の導入について。⑤ケアプランの利用者負担の導入について。⑥区分支給限度額の対象外となっている加算の特例措置の見直しについて。⑦老健等における多床室の室料負担の見直しについて。⑧総合事業における事業費の上限設定に対する特例措置の見直しについて。⑨訪問介護の生活援助及びデイサービスの要介護1・2の総合事業への移管について。⑩居宅療養管理指導の軽度者への給付の適正化について。⑪居宅サービスの自治体による指定拒否権限の付与について。
もちろん、この財務省による提案の全てが実現することはありませんが、今後の議論において一定の影響力があることは間違いありません。上記の提案の中でも特に注目されている項目を3つピックアップして今後の実現可能性を含めて確認していきたいと思います。まずは、『④利用者負担の原則2割負担の導入について』、現在は、介護サービスの利用に際して、利用者の負担は、一定の所得を有する高齢者は2割負担・3割負担の方もいますが、原則は1割負担となっています。この原則を2割にするべきとの意見でありますが、これは今すぐに原則2割負担が実現する可能性は低いと考えます。ただし、現在の2割負担・3割負担となっている方の所得水準の割合を見直して、もう少し多くの高齢者に2割負担・3割負担となるようなルール見直しの可能性は十分にありえると思います。
続いて、『⑤のケアプランの利用者負担の導入』、前回の報酬改定においても活発に議論されたテーマであり、今後の議論の大きな論点の1つであります。現時点では実現可能性も秘めている内容でもあり、今後の議論の行方次第です。一層の議論の推移に注目が必要なテーマであると思いますます。
そして最後に注目すべきは、『⑨訪問介護の生活援助及びデイサービスの要介護1・2の総合事業への移管』、数年前より財務省は提案を繰り返している項目であり、訪問介護事業者やデイサービス事業者の多くが大変心配している内容であります。万が一にも実現されてしまうこととなれば、あまりにも現場への影響が大き過ぎることからも、すぐに実現する内容ではないとお伝えすることが出来ますので、その点は安心してください。ただし、いずれかの将来には検討に向けた議論が進むこともあるとは思いますので、将来的な議論の行方に注視していきましょう。
このような介護現場に大きな変化をもたらす可能性のある議論が現在進行形で様々に進められており、現場で働く皆さんにとっては、制度や法律の話であり、少し難しく感じるかもしれませんが、現場に大きな影響が生じる可能性もあることから、日頃より情報アンテナを張っておくことは大切であると思います。このコラムにおいても出来るだけ分かりやすいい表現でこれからも継続してお伝えをしていきたいと思います。
斉藤 正行氏
- 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
- 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
- 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
- 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
- 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
- その他、介護関連企業・団体の要職を歴任
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