【斉藤正行のはなまる介護~現場に寄り添うこれからの介護業界展望~】第8回「老人ホームの人員配置基準3対1見直しのゆくえ」
2024年の報酬改定は、医療・介護・障害福祉の同時改定となり、大きな変革を伴うことが予測されています。具体的な報酬改定の中身の議論は、来年より社会保障審議会介護給付費分科会と言われる場において行われていきます。次期改定の1つの目玉として注目されているのは、「老人ホームにおける3対1の人員配置基準の見直し」についてです。内閣府が主管する『規制改革推進会議』において今年の始めより、見守り機器やICT機器の活用によって効率化を図り、人員配置基準の緩和を実現するべきであるとの提言がなされ、大手新聞の一面に記事が掲載されたのでご存知の方も多いと思います。
しかしながら、その後、業界関係者から多数の疑問の声が上がりました。「そもそもほとんどの老人ホームでは3対1を緩和するどころか、より手厚い人員配置で対応している状況にある」「ご入居者の安全面に支障が出ないのか」「介護サービスの質が低下してしまっては本末転倒だ」「職員に負担がかかり、しわ寄せがいくのではないか」こういった多くの声を受けて、人員配置基準の見直しについては、慎重な議論が現在も続けられています。
他方で、これからの人口構造を鑑みると、生産性の向上を果たさずして、介護サービスの提供体制を確保していくことは不可能に等しいとも言える状況にあります。今後も益々、要介護高齢者は増え続けることが予測されており、それに伴う介護職員の増加が必要であり、2019年度に全国で約211万人と言われている介護職員を、2040年代には約280万人に増やさなければならないと試算されています。その上、これから20年の間は、現役世代、労働人口は急速に減少していくことになりますから、今まで以上に介護職の確保は困難な状況となります。政府は、そのための手立てとして様々な対策を講じています。介護職員の処遇改善策、多様な人材確保に向けた対策、離職防止策、介護職の魅力発信に向けた対策、外国人材の活用などです。これら全ての対策を講じたとしても十分な介護職員を将来にわたって確保する見通しがなかなか立たない現状にあります。そうであれば、より少ない人数で変わらないサービス提供を実現する生産性の向上が求められることはやむを得ない側面が大きいと私は思います。
このような背景も踏まえて、『規制改革推進会議』は、更に議論を重ね、令和4年5月27日に「規制改革推進に関する答申(案)」として取りまとめた中に、「特定施設(介護付き有料老人ホーム)等における人員配置基準の特例的な柔軟化」と題した提言を行いました。文中には「先進的な取組を行うなど一定の要件を満たす高齢者施設における人員配置基準の特例的な柔軟化」との表現が示されており、一律に3対1の基準見直しを提言するものではなくなりました。従って、次期介護報酬改定において3対1の人員配置基準が変更されることは現時点で可能性は極めて低いと言えます。しかしながら、条件を満たした1部の施設においてのみ要件緩和が行われる可能性は残されています。その一定の条件とは、人員配置基準を見直したことによって、「介護サービスの質が低下しないこと」「職員への負担が増加しないこと」この2点の実現がポイントになってくることとなります。私自身としてもこの2点の条件がクリアされるのであれば、要件緩和を行うことには前向きに検討するべきであるとの立場であります。
そして、この7月より厚生労働省委託事業として「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業」が開始されています。見守り機器の活用実証を40施設、介護ロボットの活用実証を40施設、介護助手の活用実証を20施設、提案型での実証を10施設で行われており、年内中に実証を終え、年明けには結果が取りまとめられる予定となっており、この実証事業の結果が、今後の人員配置基準の見直しに大きな影響を及ぼすこととなるのは間違いないことから、しっかりと注目していきたいと思います。 最後に付け加えるならば、生産性の向上を目指すことは人材不足を解決するためにやむを得ないと申し上げましたが、そのような後ろ向き視点のみならず、生産性の向上の実現が介護職の専門性の向上・プロフェッショナル性の証明へと繋がることは過去の本コラムでも論じた通りであり、簡単ではないことは重々承知していますが、是非とも前向きな受け止め方を皆さんと一緒に探し続けていきたいと思っています。
斉藤 正行氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
- 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
- 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
- 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
- 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
- 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
- その他、介護関連企業・団体の要職を歴任
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