【小濱道博の介護戦略塾】令和6年介護保険法改正審議中盤、介護サービス20年を徹底検証する 〜そこに”経営”は存在したのか〜 <第3回>
令和6年介護保険法改正審議が本格的にスタートしました。年内に取りまとめられ、来年1月の通常国会に、改正介護保険法案が提出されます。今月は、介護保険法20年の歴史を振り返り、令和6年介護保険法改正に備えたいと思います。
【第3回】通所介護と訪問介護は大きな転換期に 1.通所介護の急拡大と制度改正による抑制 通所介護は平成20年代にその事業所数が最も急拡大した介護サービスです。地域密着型を含めると44000事業所となり、その数は、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートの店舗数にほぼ匹敵します。その先鋒となったのが民家を活用した定員10人程度の小規模デイサービスでした。民家を賃貸することで設備投資が大幅に抑えられます。定員が10人までは看護職員の配置が不要であるために、人件費も低く抑えられます。さらには介護報酬単位も非常に高く設定されていたために費用対効果の投資効率が非常に高いことが新規参入者にとって最大の魅力でした。この民家型の小規模デイサービスにお泊まりサービスを組み合わせる事で、開業後の稼働率が短期間で高まり経営が安定します。このお泊まりデイサービスは、フランチャイズ展開が加速して、多くのFC会社が立ち上がり、事業所数の拡大を後押ししました。同時に急成長によって、一部の悪質な運営をする事業所の存在が問題視されるようになり、お泊まりサービスのイメージ悪化に繋がったのです。その急拡大は行政の目にも触れるようになり、規制強化に向かうこととなります。平成27年の制度改正で、お泊まりサービスを提供する場合は届出が必要となり、同時にガイドラインも公表されました。これによって、それまでグレーゾーンのサービスであったお泊まりサービスが正式に認められることとなると共に、行政の規制が入る結果となったのです。さらに、平成27年介護報酬改定で時間区分か変更され、介護報酬が大きく減額されました。平成28年からは、定員が18人以下のデイサービスは地域密着型通所介護となり、市町村の管理下に置かれることとなります。そして、お泊まりサービスを直撃したのが、消防法の改正でした。民家を使った事業でもスプリンクラーの設置が義務化されたのです。その設置の経過措置は平成30年3月まででした。民家にスプリンクラーの設置には400万円程度の設備投資が必要で、介護報酬が大きく減額された影響もあって、資金的な余裕が無いケースが多く見受けられ、お泊まりサービスは減少に向かうこととなります。 出典:社会保障審議会介護保険部会(第92回)資料 令和4年3月24日 2.訪問介護の人材不足の拡大 訪問介護サービスは介護保険の創世記に於いては、間違いなく花形のサービスでした。ホームヘルパー資格は主に主婦層で注目の資格となり、専門学校には多くの受講者で一杯の状態でした。しかし、介護保険の施行して20年以上を経過した今、訪問介護の有効求人倍率は15倍を超え、介護福祉の倒産件数でも断トツのトップです。その原因が慢性的な人手不足です。訪問介護職員の平均年齢は、他のサービスに比べて高くなっています。これは、介護保険創世記にヘルパー資格を取ったスタッフが、これまでの訪問介護を支えてきたことを意味します。言い換えると、新しい資格者が増えていない現状も見え隠れします。訪問サービスを担当する職員は初任者研修修了者以上の資格が必要です。そのためには、時間と費用を掛けることが求められます。しかし、デイサービスや介護施設の介護職員は資格が求められることはありません。これから介護の仕事をしようとする者は、通常は資格が無くても仕事が出来る介護施設などへの就職を第一に考えます。その結果、初任者研修修了者以上の有資格者が中々誕生しないという現状になったのです。介護施設などに就職した者は、実務者研修を経て介護福祉士を取るコースを辿ることが出来るため、そのまま定着することも多いのです。その結果、なかなか訪問介護に人材が廻ってこない状況となっています。訪問介護事業者サイドでは、初任者研修の受講を促進する取組として、その取得費用の一部などを補填する取組も一時期は目立ちましたが、今は尻つぼみの状況です。また、介護職員等特定処遇改善加算の算定状況で、訪問介護の算定率が低いことも驚きです。いの一番に処遇改善加算を算定して、給与面を改善して、職員の確保と定着を促進すべきでしょう。訪問介護サービスは、他のサービスに比べて小規模零細の事業所が多いのが現状です。経営者の高齢化に伴って、後継者の問題が浮上しています。それらの諸問題を、訪問介護業界として、どう乗り切っていくのか。今、大きな課題が表面化しています。 出典:社保審-介護給付費分科会 第182回(R2.8.19)資料
小濱 道博氏 小濱介護経営事務所 代表 株式会社ベストワン 取締役 一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事 C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問 日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。 介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。 全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。 介護経営の支援実績は全国に多数。 |