【小濱道博の介護戦略塾】介護事業者が注目すべきキーワード<第1回>自立支援介護〜結果を求める介護への変貌
●始まりは故・安倍総理の一言から
平成28年11月10日の未来投資会議の席上で、故・安倍総理は、「これまでの介護はお世話が中心であるが、今後は成果を出した場合は収入が増える仕組み。結果が出ない場合や、やっていない場合は報酬が下がる仕組み」の導入を明らかにしました。現在の介護報酬は、介護をやっていれば基本報酬が、機能訓練をやっていれば加算が算定出来ます。やれば収入になる仕組みから、機能訓練を行った結果や成果で収入に差が出る仕組みに変えようという宣言でした。例えば、機能訓練の成果として椅子から立てるようになった。自分1人で歩けるようになった。その結果、次の認定更新で介護度が一つ下がった。といった実績に対して報酬を支払う形です。この流れはすでに、一部の介護報酬に取り入れられています。
●そもそも介護報酬の仕組みに問題が。
実は、介護報酬の仕組みには大きな問題があります。例えば、通所介護等の介護報酬は、介護度が高いという理由だけで時間単価が上がります。一つの例を出します。その通所介護は、素晴らしい機能訓練を提供しています。その機能訓練を受けた利用者は歩けるようになり、介護度が3から2に下がりました。素晴らしい成果です。ところが、その結果として事業所が受け取ることの出来る介護報酬の単価は下がってしまうのです。介護度が下がることで報酬ランクも下がるためです。逆に、何も結果を出せずに利用者の介護度が悪化した場合に報酬が上がります。これはおかしな話です。この問題を、正しい形、すなわち結果を出したら報酬が上がる仕組みに直すことが必要です。実は、介護報酬にこのような大きな欠点がある事は、介護保険制度の施行前の検討段階から判明していました。介護保険法が国会で成立したのが1997年12月です。その翌年6月の社会保障審議会に於いて、成功報酬の導入が検討されました。その時点では、成功報酬は介護保険法の考え方に合わないとして、見送られています。では、成果を出すと収入が下がってしまう事業者をどうするか。それは、「心の中で花束を渡そう」という意見で纏まったのです。この嘘のような本当の話が、記録されています。その後、成功報酬を審議することはありませんでした。それを大転換させたのが、先の故・安倍総理の発言だったのです。
●自立支援介護の実際
自立支援介護を収入に結びつける仕組みとして、通所リハビリテーションに移行支援加算、通所介護等にADL維持等加算、施設と看護小規模多機能に褥瘡マネジメント加算、排泄支援加算などが設けられています。しかし、報酬金額を含めて満足のいく内容には程遠いものです。これらの加算の創設当時、厚生労働省は試験的な導入という言葉を使いました。その理由は、成果、結果を評価する方法が確立していないことが大きな理由です。改善結果を比較するための基本データもありません。そのため、当時は仕組みだけを先行してスタートさせた状況です。厚生労働省は比較基準とすべきデータの収集と分析を急いでいます。それがLIFEです。そのデータを駆使して実現される仕組みを科学的介護と呼びます。しかし、LIFEが稼働して1年半以上が経過しましたが、未だに不十分なフィードバック票しか提供されていません。本格的に機能するのは2024年に次期システムに移行した時かも知れません。しかし、着々とその時が迫っています。もうじき、自立支援介護がスタートする準備が整います。
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表 株式会社ベストワン 取締役 一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事 C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。